ひと昔前、私は就職活動を楽しんでいた時期がある。
それなりの企業を受け、それなりに選考を進めることができ、幸いなことに最終的には複数の会社から内定を貰った。
面接では様々なことを聞かれたが、私はその場を取り繕うのがそれなりに得意だったため、大抵の質問は間を置かずに答えることができた。
そんな私が、1つだけ返答に困った質問がある。
「今までで一番嬉しかったことは何ですか?」
とある会社の面接で、突然出てきた質問。
私は3名の面接官に対し、少し考える時間を貰えるようお願いした。
そして目をつぶり、必死に頭の中を検索してみる。
しかし、これといって「嬉しい」と感じた体験を思い出せない。
学生時代、授業ではIT系の資格勉強をさせられていた。
そのころの私は真面目に勉強していたので、試験にはいくつか合格したし、それなりに「嬉しい」感じはする。
でも、それは学生として、いわば「当たり前」な事だと認識していたし、それを「嬉しかったこと」に挙げるのは何だか違う気がした。
じゃあ一体、私は何を嬉しいと思っただろうか。
専門学校を遡り、高校、中学校、小学校と様々な記憶をたどってみるも、良さそうな回答は全く出てこない。
結局、私は30秒程うんうんと唸った末、仕方がないので資格取得のことを答えたのだが、正直自分の喋り方からは「本当に嬉しかった」という印象は全く伝えられなかったように思う。
実際、大して嬉しいと思わずに答えたのだから当たり前だ。
あの面接を受けて以降、私は「自分の感情を思い出すのって難しいんだな」という事実をしみじみと感じながら生きてきた。
さて、最近の私はどうだろう。
昨日は社内で集合研修があり、今まで喋ったことのない人とグループを組み、はじめに自己紹介をすることになった。
その時、講師から「自分の所属や名前と一緒に『最近感動したこと』を話してください」と言われ、内心ドキっとした。
もしかして、これはあの就活の時の質問と同じやつではないか。
だとしたら、私はこの問いに、ちゃんと答えることができるだろうか。
人知れず大きな不安を感じていたのだが、その不安は的中しなかった。
なんと、私が上の問題について考え始めた瞬間、脳の中から「最近感動したこと」がフッと沸き出てきたのである。
正直、かなり驚いた。
私は不安など感じる間すらなく、自分の過去の感情を、一瞬で探し出すことができるようになっていた。
これは学生の頃から比べると、とてつもない進化だ。
思い返してみれば、私は最近、日常の気づいたことを紙のノートやEvernoteに書き留める習慣がついている。
去年からはこのブログも始めたし、今まで全然読めなかった本も読めるようになり、1冊の本を読めば沢山の気づきメモがとれるようになった。
そう考えると、私の「毎日の記録量」は、学生時代とは比べ物にならないほど増えている。
おかげで、過去の自分に起きた様々なことを、以前よりも明確に覚え、そして思い出せるようになっているようである。
だからどう、という訳ではない。
でも私は、今の自分が「過去のことを思い出せる状態」であり、それがまるで卒業アルバムのように、昔を振り返って懐かしむことすらできるものだと気づき、この事実に一種の感動を覚えている。
なんだか明日からも、楽しく生きられそうな気がする。