書評です。
この本は、これからの日本が向くべき方向性を示してくれる本でした。
内容:ハーバードで人気な、日本の「凄いリーダー」の話
ハーバード大学の授業はケースメソッド(議論形式)が中心です。
その中では、過去に色んな国で起きた、経済的・社会的な問題を例として「自分がリーダーとしてその状況に置かれたら、どう行動するか」を徹底して議論します。
本書では、日本を題材にしたケースがたくさん紹介されています。それらは実際にハーバードで使用され、現地の学生や教授達から高い評価を受けたものばかりです。
例えば、 鉄道整備会社「テッセイ」(JR東日本テクノハートTESSEI)のケース。
会社は当時、多くの問題を抱えていました。乗客からのクレームも多くて離職率も高くなり、従業員の間にも不満やストレスが溜まっているような散々な状況。しかし、これを覆した方法が見事で、とても人気になっています。
このケースについて議論が始まると、ハーバードの学生からは「報酬の改革」「プロセスの見直し」のような改善案が多く上がります。
しかし、実際にその場のリーダーが行ったのは、そうした機械的なことではなく「働く人が誇りを持てるような環境を整えること」だったのです。
当時の担当者の発言として、こんな内容が載っていました。
だから、みなさんは、お掃除のおばちゃん、おじちゃんじゃない。
世界最高の技術を誇るJR東日本のメンテナンスを、清掃という面から支える技術者なんだ。
本文にて、「書籍:奇跡の職場 新幹線清掃チームの働く誇り」より引用
この発言から従業員のマインドを変えていき、従業員から挙げられる改善の意見をしっかりと取り入れる対応を継続した結果、テッセイは大きな変化を遂げました。
そして今では動画が東京都から公開され、「7分間の奇跡」として500万再生を超える大注目を浴びるほどになっています。
このように、日本人が先駆けて行った「人間を大切にするリーダー」の考え方は今、授業を受けた学生たちだけでなく、世界中で大きなトレンドになっているようです。
本書ではこの他にも、「原爆を落とされたのに、日本人はなぜアメリカを恨んでいないのか」から「世界初の先物取引市場が日本で生まれた理由」まで、過去の日本人の行動から見える考察が多数載っています。
まとめ
個人的評価:★★★★★(5/5)
正直なところ、単純に内容を読み進めると、ただの「過去の美談の列挙」に見えてしまいます。読んでいて「確かに凄いけど、もうその時代は終わったからなぁ」と思うことも結構ありました。
なので最初は、☆4か5か迷っていました。
最終章『日本人が気づかない、日本の強みを自覚せよ』を読むまでは。
実は筆者が教授たちにインタビューする際、その全員に対して、次の2つの質問を投げかけていたのです。
- 日本の強みとは何ですか
- 日本がさらに世界に貢献するにはどうしたらいいですか
この問いに対する教授たちの生の声は、とても痛快で、そして希望に満ちています。
各教授が様々な切り口で語る、日本に対する素直な考え。
そこには「日本は強いから大丈夫」という安易な楽観ではなく「日本人の本来持っている強さ、マインドを活かせば、この先も活躍できる」という、日本人の根底の在り方を認め、まさにその凄さを自覚させてくれるような発言が沢山載っていました。
最近のネットには「外国だとこうだ!だから日本はダメだ!」という論調も多いですが、この本を読めば、目指すべき方向を再確認できるんじゃないかと思います。
そんな訳で本書は「日本ってオワコンじゃね?」と内心思っている人達に、ぜひ一度読んでみて頂きたい内容です。
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以下、個人的にこの本を読んで、日本について思ったことを書いておきます。
興味がなければここまでで。
平和であり続ける国、日本
日本はなぜこんなに平和なのか。
私はこの本を読んだ今、「お金に固執しないから」じゃないかなと思っています。
日本人は、人前でお金の話をしない。
それはお金儲けを中心とした考え方を良しとしない人が多いからです。
これは悪く言えば、経済的な思考をできる人が少ないということですが、良く言えば、お金ではない「人間性」に価値を見出すのが上手いということでもあります。
みなさんは、日本の駅で落し物をしたことはあるでしょうか。
私は一度、品川駅の精算機の前に財布を置き忘れたことがあります。
あれだけ人が混み合っていた大きな駅なので、さすがに戻ってくるのは絶望的かと思いきや、JRに問い合わせると落し物係に届いているとの回答。
そして後日取りにいってみると、そこには全てのお金と、カード等が1枚残らず全て入った綺麗な財布がありました。
もちろん今の時代を考えると、「追跡されるからだ」とか「指紋でバレるから」とか、悲観的に見ることはいくらでもできます。
ただ、お金を落し物として届けることが「普通」という日本人の感覚は、やっぱり結構凄いと思うのです。そしてこれは、「自分のお金儲け」よりも「落とした人が困っているだろう」という思いやりのほうが強いからこそできることです。
今回読んだ本の中に、すごく本質を突いている話があります。
1980年代、当時アメリカでトヨタが一躍していた頃。トヨタのやり方を実際にマネた工場がインドにありましたが、思うような結果は出ませんでした。
その工場の担当者が、数年経ってから実際にトヨタの工場を訪れると、そこにはトヨタが独自に進化させた様々なやり方があった。しかも工場を全て見せてくれた上に、ビデオで撮影しても良いと言いいます。
それはトヨタの作業員曰く、こういうことなんです。
外側をマネできても、マインド(考え方)はマネできません。トヨタの社員と同じマインドをもたなければ、同じような結果は出せないのです。
本文より引用
確かに日本は、経済を良くするための思考力は他国より劣っているのかもしれません。でも、日本には他にない「マインド」があります。
それは「おもいやり」「おもてなし」「謙遜」というような、他の外国には無いもので、今から変えようと思ってすぐに浸透させられるものではありません。
だからこそ、今の日本が本気を出せば、まだまだ世界で活躍していける。他の国との差別化ができる、ということだと考えています。
私はこの本を読んで、あらためて「日本っていいなぁ」と思いました。
今が良いだけでなく「良くなれる素質を持っている」という意味も含めて。